偉人を暗記すれば女がときめくと思っている30代の男
街コンに参加したときのこと
昔、とある街コンに参加したときのことである。飲みコンというか、広めのダイニングバーを貸し切って自由に座って気になる人とおしゃべりするという形式で、気が合えば連絡先を交換するなり飲み明かすなり自由といったところ。30代限定というコンセプトのもと、男女関係なくあちらこちらで笑い声が響き和気藹々とした雰囲気だった。
ふと見渡せば、とある場所に空間がある。一人、中肉中背の見た目は普通っぽい男性が一人佇んでいて、その周りには空間があり誰も話しかけてはいない。幽霊だろうか?私はそう思ったので目を逸らしたが、どうやら相手は自分が見つめられていると思ったらしくズンズンと隣に来て話し掛けてきた。
目が合っただけでこんな体験をするとは、思いもよらなかった
「女の食事は男がおごるものと思っていますか?」
自己紹介も挨拶もなく突然の謎の発言に、私は目が点になった。
さっきまで私と同じ席で飲んでいた人々は、その発言にサッと空間を作って向こうを向いた。
置いていかないで!と思いながらも私は
「うーん、会社とか立場とかお互いの状況でまったく話が違ってくると思いますが…」
と返事をする。
「・・・・」
相手は相槌もなく無言になった、と思ったら次の質問が飛んできた。
「この街コン、女性のほうが1,000円安いんですけどそれって男性差別だと思いませんか?」
私じゃなくて主催者に言えよ!……と思いつつも、なんでこんな奴に私絡まれたんだろうという恐怖で頭が混乱する。
何も言えなくて無言になっていたら、相手が放った一言。
「俺、徳川将軍一覧言えますよ、徳川家康、徳川秀忠、徳川家光…」
そんなん今はどうでもいいよ!……と思っている間にも相手は十五代全員を述べ上げた。
「どうですか?」
何がだよ!!!!なんで満面の笑みなんだよ!!!
私はトイレと偽ってその場を離れ、もう二度とその席に戻ることはなかった。トイレから戻った後もずっと目線を感じていたのだが、幸い
「あいつ、ソースがついて汚れた手を俺の座ってる座布団で拭いた」
と話し掛けてくれた二人組の男性がいたおかげで二度とそちらを見ることもなかった。目が合っただけでこんな体験をするとは、思いもよらなかった。
そして街コンは終了。主催者さんからの閉会の言葉があり、解散となった。
あの男はいったい何をしに来たんだろうか?
あの男はいったい何をしに来たんだろうか?おそらく彼女か嫁候補を探しに来たと思うのだけど、食事をおごるかおごらないかを質問したくなるような相手と一緒になってどうしたいのだろう?
いや、性別による差別を訴えるために身銭を切って街コンに参加したのか?それとも徳川十五代将軍を誰かに伝えたかったのだろうか?誰よりも早く一人会場を去る彼の背中を見つめながら私は思った。
「そりゃ彼女できねーわ……」